役職定年制度の運用と限界

メンタルヘルス

早期退職することを決断した人の多くが、役職定年を理由にしていると思います。
そもそも、この役職定年という制度はどういうものなのでしょうか?

役職定年とは、一定の年齢に到達したところで、管理職やマネジメント職から降格させて、処遇を引き下げる施策です。

多くの企業では「課長職の場合は55歳、部長職の場合は58歳」などと役職別に決まっています。

対象となった管理職は、賃金が大きく下がるだけでなく、企業経営の中心から強制退去させられることになるのです。

聞こえてくるのは「恨み節」

実際、役職定年経験者の声をネットで調べてみると

  • あまりにも理不尽だ
  • モチベーションを根こそぎ奪われる
  • 廃人になった気分だ

組織の意思決定プロセスから急に除外されて、出てくる言葉は恨み節ばかりです。

江戸太郎
江戸太郎

何十年もの間、一生懸命に働いてきたのに、ある日突然、立場がリセットされて、振り出しに戻るつらさは相当なものじゃよ。

役職定年は、日本独特の雇用システム

日本での導入経緯

悪評の多い「役職定年」ですが、なぜこのような制度が行われるようになったのでしょうか。

この制度は、日本独特のものです。日本では、終身雇用と年功序列の賃金体系が取られてきました。これでは、高齢層の人件費はかさむ一方ですし、年次が上がるにつれて処遇ポストが減ってきてしまいます。そのため、労使間では「退職金を積む代わりに退職を促して要員を調整する」組み合わせを暗黙のうちに了解してきたのです。

一方、平均寿命が伸びて、定年年齢や年金の受給開始年齢ではまだ元気に働けます。また、企業側にも慣れた人に仕事を任せたい事情があるため、双方の利害を調整してきた中で、役職定年というものなのです。

参考まで、他国のシニア雇用はどうなっているのでしょうか。以下、欧米の例を見てみることにします。

アメリカの場合

アメリカは、随意雇用(at-will雇用)契約の原則が貫かれています。期間の定めのない雇用契約は、雇用者・被用者の「どちらからでも・いつでも・いかなる理由でも・理由がなくても自由に解約できる」のです。

その一方で、公民権法によって、「人種・肌の色・性別・宗教・出身国」で採用、給与、昇進、賞与など差別をしてはならないと、厳しい制約があります。

また訴訟も多いので、解雇については、実際は慎重な手続きやリスク管理が必要になっています。

また、アメリカでは、解雇を進める際に就業年数が少ない若手従業員から解雇していくという取り決めです。ベテラン社員の方が守られるという点では、早期退職でシニア世代を狙い撃ちにする日本とは対照的です。

ヨーロッパの場合

ヨーロッパの多くの国においても、年齢による差別研修が法律で別に定められているため、定年制は基本的にはありません。

年金受給が始まるタイミングで、自然に離職していく慣習がとられています。アメリカと比べて、長期雇用であり、就業年数が長い一方で、若年の失業率が高いのが特徴です。
特に、オイルショック時の若年失業率の高まりは、ヨーロッパの先進国の社会情勢を聞く不安定化させました。

ヨーロッパの多くの国でも解雇は厳しく規制されています。また従業員数を見てもフランス、ドイツ、イタリア、ベルギーなどは日本と同じ位ベテランの従業員を多く抱えています。

日本の企業には、従業員を解雇しにくいと言う一般的なイメージがあります。これは、規制が厳しいこともありますが、解雇の手続きにおける透明性の確保と経営者自身の自己努力によって維持されている側面もあります。

早期退職制度の是正

賃金が年功序列で上昇し、整理解雇が制限されることの一方で、年齢による一律的な強制退職を許すという制度は、いわばアメとムチとしての均衡をとったものであり、必要不可欠なやむをえないものであるというコンセンサスを取っていると社会全体が考えてきた節があります。

企業側も、高齢社員の比率などを横目に見ながら、再雇用制度や定年後の処遇制度など、都度修正してきました。その中で、組織の新陳代謝という建前を表に出しながらも、この制度を長年にわたり運用してきたのです。

しかし、昇進滞留層のモチベーションは切り捨てて放っておくというこの姥捨山的な発想は、高齢者増加の局面に差し掛かった今、一部に破綻のきざしが見えています。一部の者にしわ寄せしてきた不幸の膿が、だんだん大きくなり、組織の膿に変化しかねない段階にきているからです。

そもそも、政府の雇用政策には明らかな矛盾があります。政府が主導する「働き方改革」の目的は、少子高齢化の社会において、個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指すというものです。高齢者雇用の安定を図るとしながらも、一方で早期退職の手法について容認をするということでは、大勢の高齢者がより良い将来展望を持てるわけがありません。

役職定年制度を改める試みも

役職定年がもたらすシニア世代のモチベーション低下を防ぐため、いくつかの企業では役職定年を廃止しました。

  • 管理職位に戻った
  • 成果次第で給与が上がる

などといった、プラスの効用もあります。ただ、それでも

  • すぐに定年がやってくる
  • 40代までについた企業内での評価を覆して逆転するのはほぼ不可能

として、自立できる自信がある人は、退職独立する選択をしているようです。

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