資生堂の早期退職について

早期退職

元資生堂の方々が、会社の現状について語ったことを聞く機会がありました。

いわく新卒で長く勤めていたそうですが、今後の不安があり辞めたとのことです。その方や、ほかの周りの辞めた方の感想をまとめると、概ね以下のような話でした。

  • 社長が外から来て、古き良き社風が消えてしまった
  • 英語公用語化についていけなかった
  • 中途採用の社員が抜擢昇進してしまい、やる気がなくなった
  • 人事制度が頻繁に変わり、自分の低い評価に耐えられなかった
  • 総合職と美容職の待遇の差に不満があった

資生堂に限らず、外から経営者が入ってきて、昭和期の経営が崩れ去り、愛着を失ったプロパー社員がこぞって辞めていくという図式は、他にもみられますが、こと資生堂に関して少し調べてみました。

早期退職計画の概要

  • 資生堂は、国内で約1500人の早期退職を募集しています。これは日本事業の従業員数の約1割強に相当します。
  • この早期退職は、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ化粧品販売の回復にもかかわらず、利益率が低迷しているため、事業構造を見直す一環として行われています²。
  • 対象となるのは、45歳以上かつ勤続20年以上の社員です。特別加算金を含む退職金が支給され、再就職の支援サービスも提供される予定です。

昭和期の資生堂

資生堂は、明治初期に福原有信らが開業した「資生堂薬局」が会社の起源で、化粧品事業で事業拡大した会社です。アールデコ調のロゴや広告媒体がおしゃれで、資生堂宣伝部は日本の広告業界を常にけん引する立場にありました。資生堂は、日本の化粧品業界のリーディングカンパニーでした。

昭和50年ごろは、折しもテレビや音楽業界の活気があったため、化粧品のテレビ広告にもっとも華があった時代でした。資生堂、カネボウ、コーセー化粧品などの各社が放つテレビCMは、常に人々の注目を集めました。

かつて化粧品は「色と匂いだけをつけて、高い値段で売っているだけのもの」と皮肉を込めて言われることがありました。化粧品自体の原価は安く抑えて、広告イメージで訴求して売られるものだという構造と捉えていました。これまでは、利益率の高さで成長してきたのだと思います。

平成期の資生堂

平成期の資生堂は、化粧品事業に依存するだけの収益構造を見直し、一般用医薬品事業や医療用医薬品事業にも進出しました。化粧品事業においては、エイジングケアブランド「エリクシール」などの高価格帯の商品の展開も始めました。

また、高齢化と人口減少で市場が先細りする日本に依存せず、全世界とりわけ中国市場への販路開拓に積極的に取り組んできました。下のグラフは、2022年度の地域別の売上高の比率を表したものですが、日本を抜いて中国での売上比率がもっとも高くなりました。

中国市場への積極的な攻勢で売上高は伸びていきました。しかし、純利益は平成期を通じて、今一つ伸びを欠いたままです。新型コロナウイルスのまん延で、2020年以降売上高が落ち込んでしまったため、これからは立て直しの段階です。

課題と展望

最近は、若い世代を中心に百均コスメや安価な韓国コスメの売上が伸びています。この価格帯に対応できていない資生堂は、戦略転換を図らざるを得ない状況にあります。

そこで、まず日用品事業であるTSUBAKIやuno などの商品を手放すとともに、費用がかさむ日本市場の労働力をリストラし、高価格帯の商品に注力して、アジア市場での利益確保を図る戦略にシフトしたのです。

よって、昭和期の古い資生堂マインドを持つ、人件費の高いシニア社員が不要になったというのが早期退職の趣旨なのです。

早期退職で切られる側は、化粧品事業が厳しい現状にあることは分かっているはずです。にも関わらず、自分たちが切られることと昭和期の資生堂マインドが否定される「二重の悲しみ」を受けているのです。

社内には「重く暗い雰囲気」が漂い、将来的には自分たちも切られてしまうのではないか、資生堂には将来性がないのではないかという疑念と動揺が広がっているようです。

外資的経営を推し進める経営陣が求める人材像に対する社員の困惑や、現場を支えてきた人材にメスを入れることには、相当のリスクがあるのですが、経営陣は本当に理解しているのかと感じざるを得ないのです。

また、日本事業の収益性の向上は大きな課題です。グローバル企業をいくら志向しようとも、資生堂が寄って立つべき場所は、この日本以外にはありません。日本人が支持しない経営戦略は、間違いなく身を滅ぼします。客の入りが少ない店舗に多くの美容部員や営業スタッフを抱えるといった伝統的な課題を克服し、日本人に寄り添った販売手法を取らねばなりません。

グローバル化という漂白剤で、古き良き日本らしさを消し去ってしまったことが資生堂の落ち込みの最大の問題点だと思います。

会社を取り巻く環境は大きく変容していますが、資生堂には消費者文化をけん引する存在であり続けてほしい、独自性を失わないでほしい、そしてかつての輝きを否定しないでほしいと願わずにはいられません。

江戸太郎
江戸太郎

時間もとまらない、いい女も燃えない、おいしくないピーチパイはいらない…

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