年金制度見直し、高齢者の働き方に変化

年金

年金制度の見直しの議論が進んでいます。
働く高齢者の年金の見直しや基礎年金の底上げなど国が幅広く検討をしています。今後、どのように変わるのでしょうか。

高齢者の働き控え防止

年金制度は5年に1度、見直しが行われます。先日示された検討案には、働く高齢者の年金の増加につながるプランがありました。

「高齢者の働き控えを防ぐ」ためです。

現在の「在職老齢年金」においては、賃金と厚生年金をあわせた額が月50万円を上回った場合、超えた金額の半分が支給停止になります。
たとえば賃金が50万円、厚生年金が10万円で合計60万円を受け取る場合、60万から50万を引いた10万円の半分、5万円が年金から差し引かれることになります。

この制度の趣旨は、少子高齢化が進み現役世代の保険料負担が重くなる中で、高齢者の労働意欲を高めて、厚生年金を減らし、年金財政を支えてもらおうという仕組みです。それを今回、見直そうとしています。

将来世代の負担増

一方、働く高齢者の給付が増えてしまうと、年金の財政に悪影響を及ぼし、将来の世代の給付が減ってしまうおそれもあります。
「所得の高い高齢者を優遇する措置だ」とか「将来の世代の給付水準を下げてまで見直すべきなのか」と指摘する声もあります。
そこで、今回の見直しで収入が増える高齢者に対して、一定の税負担を求める案も検討しています。ただし、この税負担が多いと手取りが減ってしまうことから、手取りがマイナスとならないようにする案も検討されています。

今回の改正案

年金が減り始める基準額について、以下の3つの案が示されました。

  • 62万円に引き上げる案
  • 71万円に引き上げる案
  • 制度そのものを廃止する案

この案によって、これまで減らされていた年金を満額受け取れる人が次のように増えます。働く高齢者を増やすことが目的です。

  • 62万円まで引き上げた場合→約20万人増える見込み
  • 71万円まで引き上げた場合→約27万人増える見込み

年金50万円の壁

現行の制度は、50万円を超えないように働くのを抑えてしまうことから「年金の50万円の壁」とも言われています。去年の世論調査では、厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方について「年金額が減らないよう就業時間を調整しながら働く」と答えた人が44.4%に上り、経済界からも見直しを求める声が上がっていました。
厚生労働省の部会においては、年金制度の見直しを進めることについては了承されました。

年金の財源を増やす案

一方、この案とは別に、厚生労働者は今回、年金の財源を増やす案も示しています。
現在、厚生年金の保険料は月収65万円が上限となり、それ以上は保険料は同じとなっています。経済力の高い人にはより多くを負担してもらうため、65万円の上限を引き上げて保険料の支払いを増やす案が検討されています。
年金制度を継続していくためには、高額所得者の応分の負担が不可欠です。

基礎年金の底上げ案

そして、今回、もうひとつ大きなテーマとして基礎年金の底上げ案も提示されました。
公的年金は、1階は自営業者などが入る国民年金を含む基礎年金、そして2階が会社員などの入る厚生年金の2階建て構造です。このうち、国民年金はこれまでのデフレの影響などを受けて財政状況が悪化しています。その結果、国民年金を含めた基礎年金全体の給付水準が低下することが懸念されています。

今回、厚生労働省は将来的に基礎年金の底上げを図る案を示しました。
厚生年金自体の給付水準を一定期間抑制して、年金を払った後に残った保険料を運用して貯めてある積立金を活用することを提案しています。働く女性や高齢者の増加で厚生年金に加入する人が増えて厚生年金の財政状況が良くなっているため、積立金があるというわけです。

底上げ案検討の背景

このままでは将来、年金の受給額が少なく生活に困窮する高齢者が増えるおそれがあります。特に懸念されているのは、1971年から1974年に生まれた「団塊ジュニア」と呼ばれる世代です。

1974年度生まれの50歳の人が65歳時点で受け取る年金額を、厚生労働省が推計したところ、経済が過去 30年間と同じ程度で推移した場合、全体の39.1%の人は10万円未満となっています。

この世代は、バブル崩壊後の1990年代から2000年代半ばに就職活動をした「就職氷河期世代」も重なり、正規雇用を望みながらも非正規で働き、収入が少ない人や厚生年金の加入期間が短い人などもいることが背景にあるとみられています。こうした人たちを中心に、将来の年金額の低下に対する現役世代の不安は根強く、抜本的な対策が求められていました。

ただ、厚生年金の積立金が使われることに懸念や不満の声も出るなど課題も指摘されています。画面の上の方にあるように制度を導入してから一定期間、厚生年金の給付水準が抑えられる、つまり受け取る年金が減る見通しなのです。その点で国には具体的にいつまでどの程度減るのか、しっかりと説明してほしいと思います。

一方で、基礎年金の財源の半分は国庫負担です。国は、厚生年金の積立金とともに国庫負担によって基礎年金全体の底上げを図ることで、将来的にほとんどの人が受け取る年金は増えると説明しています。ただ、今回、厚生労働省が示した案を実施すると、国庫負担が今より1兆円から2兆円増えると見込まれています。財政事情が厳しい中でどのような方法で確保していくかも考える必要があります。

こうした国庫負担が増える時期について厚生労働省は「10年以上先」だと説明していますが、これによって将来世代の税負担が重くなることも考えられます。公的年金制度は「世代間の助け合い」の制度だと言われますが、不公平感を減らして制度への信頼を高めるためにも、こうした将来の負担のあり方については特に丁寧な議論と説明が求められると思います。

厚生労働省は、来年の通常国会において、年金見直し法案の提出を目指しています。持続的な年金制度を続けるためには、少子化や人口減少に歯止めをかける事や、一定の経済成長も不可欠です。

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