オムロンの早期退職 2024

早期退職

オムロンは、かつては「立石電機」という名前でした。昭和期に発展した優良企業ですが、企業名から創業者の名前が消えたとき、企業は個人の手を離れ社会のものとなります。立石電機も平成に汎用性ある企業を目指しましたが、思いのほか伸びを欠き、早期退職のリストラを行うことになってしまったようです。

堅実な雰囲気もあるオムロンが、今回1,000人程度の希望退職を募りました。一体何が起きたのでしょうか。

江戸太郎
江戸太郎

本体は、5,000人程度だが、そんなに辞めて大丈夫か?

経営悪化の原因

この背景には、次の点があげられます。

  1. 価格変動の激しいデジタル商品への依存
    オムロンは、体温計や血圧計の会社と思われがちですが、ヘルスケア関連の売上高は全体の2割弱にすぎません。主力商品は、工場のラインで使われるロボットやセンサーなどの制御機器で、全社ベースでの売上高の5割、営業利益の8割を占めています。このデジタル制御機器の価格変動が激しく、利益を大幅に削った最大の要因とみられています。
  2. 大口顧客からの受注減少
    半導体関連の製品やEV(電気自動車)向け二次電池に関して、大口の顧客からの受注に頼る構造になっていましたが、その大口からの受注が減少したため、売上を大きく減らしてしまいました。
  3. 中国からの受注減少
    さらに中国にも受注を頼る構造になっており、その中国の景気減速の影響を受けて、売上は一層落ち込みました。

伸びない利益

業績低迷の状況を、売上高と利益の推移で見てみましょう。

オムロンの売上高は2010年代後半から年間8,000億円前後で安定的に推移していましたが、2020年3月期に新型コロナウイルス感染拡大の影響で7,029億円まで落ち込みました。その後、2021年3月期に回復したものの、2022年3月期は半導体不足の影響もあり、再び8,246億円と減少に転じています

前述したように、業績の柱である自動車向け電子部品や産業用制御機器関連で需要が伸び悩んだのが原因です。

また、オムロンの最終利益は2010年代前半は300億円台と低迷していましたが、2015年以降は600億円を超える高水準が続きました。ただし、2020年3月期はコロナ禍の影響で229億円に大幅減少しています。

2021年3月期は732億円と一旦V字回復を遂げましたが、2022年3月期は半導体不足の影響などで422億円に減少し、コロナ前の水準を下回っています

先日発表した2024年3月期連結決算においても、売上高は8187億6100万円(前年度比6.5%減)、営業利益は343億4200万円(同65.9%減)、純利益は81億500万円(同89.0%減)の大幅な減収減益の厳しい状況が続いています。

半導体不足がもたらした影響

また、経営悪化の一端には、半導体不足の影響があったといわれています。

内製化の遅れ

そもそも、オムロンでは半導体の内製化が遅れており、外部の半導体メーカーに依存する度合いが高い状況にありました。この調達リスクをもろに受けていたことになります。

サプライチェーンの問題

オムロンの製品は部品から完成品まで、グローバルなサプライチェーン上で生産されるため、半導体メーカーや部品メーカーなどでの調達トラブルが、生産に直結するリスクがあります。

このリスクを回避するため、オムロンは2023年に半導体内製の新工場を立ち上げる計画があります。奏功すれば、今後は調達リスクが低下する可能性があります。また、DXを活用してサプライチェーンの最適化を図ることにも取り組んでいます。

オムロンだけが沈んでしまった

今回の早期退職の起因となった経営悪化ですが、キーエンスやSMCのようなFA(ファクトリーオートメーション)同業他社は見舞われていません。つまり、業界全体の問題ではなく、オムロン固有の問題と言えます。創業家による経営が、旧来の発想にこだわり続けて、業界のスタンダードについていけなかったのではないでしょうか。現経営者が、この宿痾を克服できるかは未知数です。早期退職の荒療治で回復できるのか、引き続き気になるところであります。

社員の反応は

実際は、さまざまなもので、暗澹たる気持ちに覆われている人たちがいる一方で、将来的な開発投資の縮減を見越して、退職を前向きにとらえている人もいるようです。中途採用の社員が多くなっているため、退社することに抵抗感を持たない雰囲気も見受けられます。また、社員に退職を強いて、自ら腹を切らない経営陣に怒りを隠せない人もいます。

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